……。
…………。
……イリア……。
声が……聞こえる。遠くからあたしを呼ぶ声が……。
「あなた、誰……」
あたしはその声の正体を掴もうと藻掻く。けれど、あたしの体は水の中のように抵抗を受けて、思うようには動いてくれない。
しかし、たとえ五感が効かずともあたしたちにはもう一つの回路がある。
「ネクサス=マギカ……っ!」
なんとか体の全体に意識を込めて、魔力を生み出そうと試みる。体を巡る血液と同じように、意識しなくても本来魔女の体には魔力の流れがあるはずなのだ。
「そんな……」
……しかし、体からは全く魔力を感じられなかった。
この世界にも、魔力が不足してしまう魔女は存在する。それは生まれつきだったり、ある時急になくなってしまったり、原因は様々だ。
しかし全てに共通しているのは、あたしたちはそれをひどく恐れている――ということ。リハビリによってそれなりに魔力を取り戻せるケースもあるけれど……大抵の場合は、そううまくはいかない。
魔法界のマジョリティは当然、魔女――魔法を持つものたちだ。そういう点で、この世界は魔法を持たざるものに寛容ではなかった。
ましてやあたしのママは誰もが名を知る大魔女で。それでもあたしは、ママの期待に応えられる魔法だけは持っていたから、自分が魔法を失うときのことを想像したことなんてなかった。
そっか、あたし……もう魔法界にはいられないんだ。
「聞こえてンのかっ渡会愛麗亜!!!」
――そんなあたしの思考は、脳天に直撃した白いチョークに遮られてしまうのだった。