第一章
『魔女。それは、古より存在する太古の魔術を身に付けし者。
故に、常に誇り高くあり、質素倹約な生活を心得、真摯に勉学魔女修行に励み日々精進し、いつか先達のように立派な一人前の魔女になれるよう、貴女方魔女候補生は努力せねばならない。…………』
「んなの、面倒くさいし。てか誇りとかないし」
一通り魔女学校の生徒手帳に目を通したあたしは、ふあーと欠伸を一つして、生徒手帳をローブのポケットにしまい、ベッドに寝転がった。ベッドは質素な作りで硬く、とても寝心地が良いとは言えなかった。
「相変わらずアンタはやる気ないねぇ」
下の方から、同級生のアンジェリカの声がした。
彼女とあたしは同じ寮のベッドを使っている。あたしは二段ベッドの上、アンジェは下。
あたしたちが通うスターライン魔女学校は全寮制で六人一部屋、三つの二段ベッドがすべての部屋に割り当てられているのだ。
あたしは二段ベッドから身を乗り出して、アンジェを覗き込んだ。アンジェの傍らには、あたしの大嫌いな魔女用参考書が山積みになっていた。
「げぇっ、よくやるよアンジェも」
「私はアンタと違って真面目だからね」
閉口。でも勉強は面倒くさい。仕方がないことだ。
「というかアンタ大丈夫なの? この前の筆記試験も学年最下位だったじゃない。このままじゃ留年、いやこの学校は厳しいから、……行きになっちゃうよ、いやマジで」
アンジェが真顔であたしを見据えて言った。その通り、あたしは今かなりヤバい状態にあった。
スターライン魔女学校の成績は、二つの試験によって決まっている。一つ目、実技試験。そして二つ目は、筆記試験だ。これが1:1の割合で成績に反映されるのである。
これが、この学校のイレギュラーな点だ。
大抵の魔女学校は、実技オンリーか仮に筆記があるにしてもそれが成績に反映される割合は限りなく低い。何故なら、魔女は魔法さえできればいいという考えが、ここ魔女世界では一般的だからだ。まあ、魔女は魔法さえできればなんでもできるからね。
あたしも、そういう普通の魔女学校に入りたかった。
あたしのママは、言わずとしれた”最強の魔女“だもん。元々の魔女力が高いんだから、何もしなくたって優等生になれたはずだから。
でもママは、無理やりあたしをスターライン魔女学校に入学させた。いつもは温厚なママをあんなに怖いと思ったのは、初めてだ。
そして、今の落第寸前のあたしがある。