ep02.運命の瞬間

 そして、運命の判決は下される。

 アンジェとの会話から二週間後の期末考査の最終日、あたしは理事長のお呼びだしを食らった。

 いつものチャイムとは違う、ブザーのような音が全校舎内のスピーカーから響き渡り、あたしの胸のブローチが赤い光を放ち始める。すると担任が静かにあたしの名を呼び、頑張ってねと棒読みで告げてあたしを教室から追い出した。

 あたしは、ゆっくりと理事長室へと歩き始める。

 箒で飛べば一瞬だ。でも、あたしはそうしなかった。そうしないとみんなの注目の的だと分かっていながら。

 後輩は何事かと耳打ちし合い、

 同輩は哀れむような視線を向け、

 先輩はまたかと言ったような顔であざ笑っている。

 私はといえば、なにも考えずにひたすら理事長室を目指し続けていた。

 やがて、スターライン魔女学校最上階である82階の理事長室の前へたどり着いた。重々しい赤色の扉が、眼前にそびえ立っている。その両脇には、あたしの脚の長さくらいの大きさの巨大な蝋燭が百本ずつ。

 足を踏み入れてはいけないような荘厳とした雰囲気に押され、中にはいるのを躊躇っていると、

「入りなさい」

 低いしわがれた老婆の声がして、ゆっくりと扉が開かれた。

「失礼します」

 一歩足を踏み入れると、顎の前で手を組みいすに堂々と座っている理事長らしき人物と、そのそばに控える秘書らしき二人の女性のシルエットが見えた。

 逆光で、顔はよく見えない。

「何故、呼び出されたか分かりますか」

 理事長がゆっくりと、あたしに尋ねた。

「成績、ですよね」

「えぇ、そうです」

 理事長はため息を一つ、

「あなた、本当にやる気ある?」

 顔が見えなくてもあたしをじっと見ていることは分かる。その鋭い眼光に、心の奥を見抜かれている気がしてならなかった。

 実際、すごい魔女の中には相手の目を見るだけで人の心が読める人、いるし。というか、あたしのママがそうだった。理事長はどうだろう、やっぱりスターライン魔女学校の最高責任者だからなあ。

 とにかく、嘘は言えないな、と思う。

 だからあたしは少し考えて、

「全くありません」

 そう、口にした。

 ――そして翌日、三カ年の人間界での修業があたしに言い渡されたのであった。

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